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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6925号 判決 1970年6月05日

原告 真木清左衛門

被告 国

訴訟代理人 古館清吾 外一名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告訴訟代理人は、「一、別紙物件目録記載の杉立木につき、原告が所有権を有することを確認する。二、被告は、原告が前項の杉立木を伐採、製材および搬出するのを妨害してはならない。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同趣旨の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

原告訴訟代理人は、請求の原因として、

「一、原告の先々代真木小左衛門(以下小左衛門という。)は明治三七年中、国有土地森林原野下戻法(明治三二年四月一八日法律第九九号)(以下下戻法という。)に基づき農商務大臣を被告として行政裁判所に秋田県仙北郡長信田村(現在の太田村)大字太田字真木沢国有林のうち小字袖川に生立する杉立木を三官七民(即ち小左衛門に一〇分の七)の割合をもつて下戻すべき請求訴訟を提起し、同裁判所は、同三九年六月一九日、右小左衛門の請求を全部認容する判決をし、該判決は確定し、これにより小左衛門は、真木沢国有林のうち小字袖川に生立する杉立木(以下判示杉立木という)につき、一〇分の七の持分を有する共有権を取得した。

二、そこで、当時の農商務大臣は、明治三九年六月二七日、秋田大林区署長(現在の秋田営林局長)に対し「判示杉立木につき三官七民の割合をもつて下戻すべき旨判決有之候条相当立木引渡方取計うべし。」

との「達」をなし、これを受けた大林区署長は、管下の六郷小林区署長(現在の秋田県大曲営林署長)に対し、真木沢国有林のうち小字袖川に生立する杉立木の毎木調査をしたうえ、その総材積の一〇分の七を小左衛門に引渡すべき旨を命じた。

六郷小林区署長は、「小字袖川」と思われる区域内の杉立木を調査したところ、杉立本一〇、一〇五本、材積約一〇、一九七立方米であつたので、その一〇分の七として、明治三九年一一月二〇日小左衛門に対し、別紙図面「朝日沢」から「袖川沢」にいたる沢筋の東側部分(別紙図面(a)区域)および「オツアエ沢」「キタキ沢」区域に生立している杉立木、合計六、六四七本、材積約七、〇八一立方米を引渡した。

しかし、その後右両区域内に生立する杉立木だけでは、袖川の杉立木の一〇分の七に足りず、しかも「オツアエ沢」「キタキ沢」区域は「小字袖川」に含まれないことが判明した。

そこで、六郷小林区署長は、明治四〇年二月三日、すでに引渡ずみの(a)区域はそのままとし、前記「オツアエ沢」「キタキ沢」区域の杉立木の引渡を撤回し、これにかえて「桑原沢」と「西ナベワリ沢」の中間に位置する「二ツ山沢」区域の杉立木を引渡し、かつ、不足分を補うものとして(イ)袖川の西方(即ち右岸)水流より三六三・六米(二〇〇間)幅で南は「桑原沢」から北は「キトノ沢」にいたる区域(別紙図面(イ)区域)(ロ)大杉沢の左岸日影区域(同(ロ)区域)(ハ)朝日沢峰にいたる区域(同(ハ)区域)以上三区域の杉立木を引渡した。かくして、小左衛門は別紙図面(a)(イ)(ロ)(ハ)区域および「二ツ山沢」区域に生立する杉立木合計六、六八九本、材積約七、〇七八立方米の分割引渡を受け、その単独所有権を取得した。(なお右記区域の杉立木のうち「二ツ山沢」区域内の杉立木はその後まもなく、伐採搬出された。)

三、小左衛門は、大正一一年六月一一日死亡し、その養子である真木寛蔵が家督相続をしたが、同人も昭和二一年三月九日死亡したので、その長男である原告が家督相続により別紙図面(a)(イ)(ロ)(ハ)区域の杉立木(以下本件杉立木という。)の所有権を取得した。

四、原告は、昭和三九年五月八日本件杉立木を伐採、搬出すべく所轄の大曲営林署長に対し、右伐採、搬出に必要な国有林野の使用許可を申請したところ、同営林署長は、同四〇年四月一三日付文書をもつて「明治三九年六月一九日の行政裁判所の判決にもとづいて下戻された杉立木が申請区域内に現存するという申請人の主張には同意しかねる。」との理由で、原告の右申請を却下した。

したがつて、被告は原告の本件杉立木所有権を否認しその伐採、搬出等を妨げるものというべきである。

五、よつて原告は請求の趣旨記載のとおりその所有権確認ならびに妨害禁止を求める。」

と述べ、被告の抗弁に対する答弁として、

「一、抗弁一、二の事実は否認する。

二、同三の事実中、小左衛門が下戻判決により分収の権利を取得し、判示杉立木が部分林とみなされるに至つたこと、農商務大臣が「達」をしたのが被告主張の理由によること、本件杉立木が国の所有に帰したことは、いずれも争う。」

と述べ、さらに抗弁三に対する反論として、

「一、小左衛門は、下戻判決により、判示杉立木につき、持分一〇分の七の共有権を直接取得したのであつて、分収権を取得したのではない。農商務大臣は、判決後直ちに、所轄秋田大林区署長に対し、共有物の分割を命じ、本件杉立木を小左衛門の承諾を得て同人に引渡したのであつて、右はとりもなおさず、当事者の協議による民法上の共有物の分割であり、その間分収の観念をいれる余地は全くない。

小左衛門は、右分割引渡を受けることにより、これと同時に本件杉立木につき完全な所有権を取得したものである。判示杉立木は、次の理由により旧法第一九条第二項の看做部分林ではないというべきであり、これに旧法ならびに旧規則が適用されることはない。

すなわち、判示杉立木が、もし看做部分林であるならばその存続期間の定めはないから、旧規則第二二条により農商務大臣は該部分林につき存続期間を定めなければならなかつたものであるところ、同大臣はかかる定めをしていない。また分収の方法についても代金によるか、材積によるかについては、何人によつても決定されたことなく今日に至つている。

二、かりに被告主張のごとく判示杉立木が旧法第一九条第二項の部分林と看做されるとしても、これに適用されるとする旧規則第一二条第二項、第一三条は、次の理由により無効である。旧規則は、被告主張のごとく旧法第二三条によつて準用される同法一八条第三項の規定にもとづく令であるが、同条項が勅令に委任した事項は、部分林設定の方法および造林者に譲与すべき林野産物に関する事項に限定しているのであつて、部分林の本体たる樹木の所有権の帰属等については委任していない。

すなわち、旧法第一八条第三項にいう「譲与」とは、無償で所有権を移転するとの意味であり、「林野産物」とは旧規則第八条や、国有林野委託規則(昭和三二年八月三日勅令第三六四号)(以下委託規則という。)第五条に規定されているごとき軽微な林野産物をいうのであつて、旧法の右条項は、部分林の樹木に関するものではない。

旧法第二〇条ないし第二二条によれば、部分林の樹木については、民法の共有権に関する規定の適用があることが明らかであつて、旧法第二二条が民法第二五六条の適用を排除しているのは、山林の性質上、特に育成途上において濫りに分割請求を認めることは適当でないとの立法趣旨によるものにすぎないのである。したがつて、部分林の収益分収については、国と造林者とは対等の共有者として民法上の一般原則によりいか様にも方法を講じうるのであつて右共有物分割の制限があることを理由として旧法第一八条第三項を拡大解釈し、林野産物に部分林の樹木をも含むと解すべきではない。

しかるに、旧規則第一二条第二項、第一三条は、旧法第二〇条により本件たる部分林の一部の持分権を有していたにすぎない国が、造林者の取得した分収樹木の所有権を没取し得る旨を規定しているのであつて、かかる事項は、勅令委任事項の範囲を逸脱し、委任のない事項につき規定したものであるから、同条項は当然無効である。

なお、旧規則第一二条第二項、第一三条が有効だとすれば、次のような不均衡をきたすことになる。

すなわち、もし立木竹につき下戻により直接単独所有権を取得した場合にはこれを喪失させるような規定はどこにもないにかかわらず、下戻により分収権を取得し、その共有物の分割を受けて単独所有権を取得したものについては搬出期間内に搬出しなければその所有権を喪失することになる。」

と述べ、再抗弁として、

「かりに前記旧規則が有効であるとしても、部分林の存続期間が農商務大臣により定められたことがないのは前記のとおりであるから、その期間は、本件下戻判決のあつた明治三九年六月一九日から旧法第二一条の規定する最長存続期間たる八〇年とすべきであるから、本件杉立木についての分収の時期は、今後なお一九年余を残していることは明らかである。したがつて、旧規則第一二第三項の搬出期間を定めるとすれば右存続期間満了の日から起算すべきである。」

と述べた。

被告訴訟代理人は請求原因に対する答弁として、

「一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二項中、被告が小左衛門に対し、別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)区域の杉立木を引渡した事実は否認する。その余は認める。

三、同第三項の各相続の真実は知らない。

四、同第四項は認める。」

と述べ、抗弁として、

「一、小左衛門は、明治四〇年五月ころ、別紙図面(a)区域の杉立木を訴外斉藤太助に譲渡した。したがつて、小左衛門は同立木の所有権を失つたものである。

二、かりに右主張が理由ないとしても、別紙図面(a)区域の杉立木は、明治四〇年五月ころ訴外秋田挽材合資会社が全部伐採したから現存していない。

三、かりに、小左衛門に引渡されたのが、原告主張の(a)(イ)、(ロ)、(ハ)、区域の杉立木であり、今日なお現存しているとしても、本件杉立木は、次の理由により被告国の所有に帰属した。すなわち、

(一) 小左衛門は、行政裁判所に対し、判示杉立木につき、下戻法第一条の「分収の事実」を主張して、下戻を訴求したのであつて「所有の事実」を主張したものではない。

したがつて、同人は、前記下戻判決により分収の権利を取得したのであるから(同法第四条第一項)判示杉立木は、旧国有林野法(明治三二年三月二三日法律第八五号)(以下旧法という。)第一九条第二項により部分林とみなされるに至つた。

(二) ところで、部分林の分収方法については、旧規則第一一条において、原則として代金分収によるものとし、例外的に国が分収すべき樹木を保存する必要があるときは材積による分収ができるとされているところ、判示杉立木中被告の分収すべき杉立木は、土砂流出防備林としてそのまま保存する必要があつたので、当時の農商務大臣は明治三九年六月二七日、小左衛門に対し、杉立木を材積をもつて引渡すべき旨の「達」をした。

(三) そこで、所轄秋田大林区署長は、農商務大臣の達に基づき、明治三九年一一月二〇日、六郷小林区署長をして別紙図面(a)区域の杉立木を小左衛門に引渡させたが、その際右大林区署長は、旧規則第一二条第二項により右分収樹木の搬出期間を「引渡ノ日ヨリ満二ケ年六ケ月」と指定し、さちに、明治四〇年二月三日、別紙図面(イ)(ロ)(ハ)区域の杉立木を引渡したとしても、その際、該部分の杉立木も右記(a)区域杉立木の搬出期間と同期間までに搬出を命じ、小左衛門はこれを承諾した。

(四) ところで、かかる造林者に引渡された分収樹木で、伐採、搬出未了のまま搬出期間を経過したものは、旧法第二三条により準用される同法第一八条第三項の規定にもとづく勅令たる旧規則第一二条第二項、第一三条により国の所有に帰属するものとされている。

したがつて、かりに現在、右引渡ずみの杉立木が残存しているとしても、右搬出期間である明治四二年五月二〇日の経過により本件杉立木は、被告国の所有に帰したものである。」

と述べ、抗弁に対する原告の反論一、二に対し、

「一、原告は、判示杉立木につき、存続期間の定め、ならびに分収の方法につき、決定されたことがないことを理由として、該杉立木が看做部分林でないと主張するが、右存続期間については判示杉立木は、前記下戻判決からも明らかなように、天明五年に、成木のうえ分収すべしと定められており、判決時すでに一二〇年余を経過し、充分に成木していたので、当時の農商務大臣はいまさら、右杉立木について部分林としての存続期間を定める必要がないと考え直ちに分収することとし、またその分収の方法については、前記のとおり判示杉立木中、被告の分収すべき杉立木は、土砂流失防備林として、そのまま保存する必要があつたので材積をもつて分収したのである。

二、旧法第二三条が準用する第一八条第二項の林野産物とは、原告が主張するような軽微な林野産物にかぎらず樹木を含む一切の林野産物を総称しているものである。

旧法第一八条は、直接には委託林についての規定であるが、同法第二三条が部分林の造林者の場合にこれを準用したのは、同法第一九条による部分林の設定とこれに伴う林野産物の譲与に関する規定を勅令に委任するためであつて、部分林樹木の譲与をこれに含むことは当然である。けだし、部分林の設定と、委託林の設定とでは、造林者および受託者が当該林野を保護する責任を負う点では共通であるが、部分林の設定の場合には、更に造林者は植林し、手入れをする義務を負担し、その結果当該樹木を国と共有し、樹木からの収益を分収する権利を取得するという点に違いがあり、しかも、旧法第二二条が民法第二五六条の適用を排除しているから、これに対応する措置を定めなければならない。旧法第二三条が同法第一八条第三項を準用するのはこのためである。したがつて旧法第二三条が準用する旧法第一八条第三項の「受託者ニ譲与スベキ林野産物」の趣旨を理解するに当つては、「造林者が分収し、あるいは採取すべき林野産物」を含むものと解しなければならない。

また、委託規則第五条において、受託者に譲与すべき林産物として「手入ノ為伐採スル樹木」「自家用薪炭材」などを列挙し、旧規則第八条でも造林者の採取しうべき産物として「植林後二〇年以内ニ於テ手入ノ為伐採スル樹木」をあげ、さらに旧法第一〇条にもとづく国有林野産物の売り払いに関する勅令(明治三二年八月二日第三六三号)においても「国有林野産物ハ左ノ場合ニ限リ随意契約ヲ以テ売払フコトヲ得、、、、二、非常ノ災害アリタル場合ニ於テ其ノ羅災者ニ建築営繕又ハ薪炭ノ材料ヲ売払フトキ三、従来ノ慣行ニ因リ薪炭材又ハ副産物ヲ地元人民ニ売払フトキ四、委託林野ノ産物ヲ受託者ニ売払フトキ五、部分林ノ産物ヲ造林者ニ売払フトキ、、、、」など規定していることからも明らかなように、旧法第一八条第二、三項が旧法二三条により準用される場合の林野産物は、樹木を含む一切の林野産物を総称しているものである。

なお、所有の事実が認められて下戻がされた立木竹については、国と所有者との間で、搬出期間中に搬出しないときは所有権を放棄したものとみなす旨の契約をして処理してきたから、実際問題として不均衡を生じたことはない。」

と述べ、原告の再抗弁に対する答弁として、

「再抗弁については争う。」

と述べた。

第三、証拠関係<省略>

理由

請求原因第一項の事実、同第二項のうち、六郷小林区署長が本件杉立木中別紙図面(イ)(ロ)(ハ)区域の杉立木を小左衛門に引渡したこ裁判とを除くその余の事実、および同第四項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、まず、被告の抗弁三の主張について検討する。

下戻法第一条は、地租改正または社寺上地処分により官有に編入されて国有に属した土地森林原野もしくは立木竹は、その処分当時これについて「所有」または「分収」の事実があつた者がその下戻の申請をできる旨規定し、さらに同法第四条第一項は、下戻を受けた者は、その下戻により「所有」または「分収」の権利を取得する旨規定しているから、従前土地林野等につき所有の事実があつた者は下戻によりその物につき所有権を取得し、分収の事実のあつた者は下戻により分収の権利を取得するものと解される。

ところで、<証拠省略>によると、小左衛門は、明治三七年中、行政裁判所に、判示杉立木は同人の祖先真木清左衛門が旧秋田藩庁の許可をえて自生していたものを培養し、もしくは新たに自費をもつて植栽したもので、天明五年中、成木のうえは半官半民の割合で分収することに定められ、その後文化年中に三官七民の割合に改定された旨の各事実を主張して判示杉立木の下戻を訴求し、請求原因第一項の下戻判決をえたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみると、小左衛門は、判示杉立木につき前記下戻法第四条第一項により、三官七民の割合による分収の権利を取得したものであつて、同人は、旧法第一九条第二項にいわゆる国有林につき収益の分収をなすものにあたり、右杉立木は部分林とみなされ(大審院明治四二年四月二三日判決民事判決録第一五輯三七七頁参照)、旧法およびその委任命令である旧規則の適用を受けるものというべきである。

そして、旧規則第一一条および第一二条第二項によると、部分林の収益は樹木売払代金をもつて分収するのが原則であるが、国の分収すべき樹木を保存する必要あるときは材積をもつて分収することができ、材積をもつて分収するときは、造林者は大林区署長の指定した期間内にその分収樹木の搬出を終えなければならない、とされているところ、秋田大林区署長は、明治三九年中、原告主張の農商務大臣の達に基づき、管下の六郷小林区署長に対し判示杉立木を毎木調査のうえ、その総材積の一〇分の七を小左衛門に引渡すべき旨を命じ、右小林区署長は、これを受けて本件杉立木をそれぞれ小左衛門に引渡したというのであるから、右は、部分林たる判示杉立木の分収方法につき右各旧規則にしたがい、材積をもつて分収する方法を選択し、これを実施したものということができる。

この点につき、原告は、判示杉立木については、旧規則第二二条に基づき部分林の存続期間が定められたことはなく、分収の方法について国と造林者との間で材積によるか代金によるかについていまだ決定されたことがないことを理由として、判示杉立木が看做部分林でなく、旧規則の適用を受けない旨主張する。

しかし、前記<証拠省略>によると、判示杉立木は、天明五年中、成木のうえは半官半民の割合で分収することに定められていたことがうかがわれるから、明治三九年当時はすでに一二〇年余を経過して十分に成木として伐期も到来していたものと考えられる。したがつて、右杉立木につき部分林としての存続期間が定められなかつたことは被告の認めるところではあるが、国が下戻判決を受けて間もなく、判示杉立木の総材積の一〇分の七を小左衛門に引渡したのは、右杉立木の樹令等を参酌してただちに材積をもつて分収するのが相当であり、これにつきあらためて存続期間を定める必要がないとしたためであろうことは、容易に推認できるところである。そして、下戻により看做部分林となつたものにつき、樹令を考慮して存続期間を定めることなく、ただちに分収することも、旧法および旧規則の適用上許容されたところと解することができる。

また、本件杉立木が小左衛門に引渡されたことは、判示杉立木につき旧法、旧規則を適用して材積をもつてする分収方法が決定された結果にほかならないことは、さきに述べたとおりである。

右のとおりで、判示杉立木が看做部分林でなく、小左衛門に対する本件杉立木の引渡が部分林の収益分収ではなく、共有物の協議分割にすぎない、とする原告の主張は、失当である。

次に、秋田大林区署長が本件杉立木を小左衛門に引渡すに際し、分収樹木の搬出期間を明治三九年一一月二〇日(最初の引渡の日)から満二年六ケ月と指定したことは、当事者間に争いがなく、旧法第二三条の委任による勅令である旧規則第一二条第二項、第一三条によると、造林者が大林区署長の指定した期間内に分収樹木の搬出を終らないときは、その搬出未了の樹木は、国の所有に帰することとされているから、本件杉立木中搬出未了のものが残存するとしても、それは、明治三九年一一月二〇日から二年六月の経過とともに、国の所有に帰したものといわなければならない。

原告は、旧規則が旧法第二三条の準用する同法第一八条第三項の委任による勅令であり、同条項が勅令に委任した事項は部分林設定の方法および造林者に無償で譲与すべき林野産物、すなわち旧規則第八条、委託規則第五条にいう軽徴な林野産物に関する事項にかぎられ、部分林の分収樹木の所有権の帰属に関する事項を含まないのに、旧規則第一二条、第一三条は、旧法の委任しない分収樹木の所有権の没収を規定するもので、その効力を有しない旨および右各条項が有効だとすれば、立木竹につき下戻により所有権を取得した場合と、分収権を取得した場合とで、その取得した権利の帰趨に不均衡が生ずる旨主張する。

しかしながら、当裁判所は、次の理由により、原告の右主張は採用しがたいものと考える。

旧法第二三条は、同法第一八条第二項および第三項を部分林の造林者に準用しているから、同条(第二三条)は、「国有林野に部分林が設けられた場合には、その造林者に林野産物を譲与することができる。部分林設定の方法および造林者に譲与すべき部分林の林野産物に関する規定は勅令をもつて定める。」旨を規定したものと解される。

ところで、旧法第一八条第三項の委任による勅令たる委託規則第五条は、受託者に譲与できる林野産物として「一、末木、枝条および枯倒木 二、手入れのため伐採する樹木 三、自家用薪炭材 四、土地の資質をなさない副産物」を掲げ、旧規則第八条は、造林者が採取できる産物として右に類するような林野産物を掲げているから、旧法第二三条にいう造林者に譲与すべき林野産物の意義も、以上のような軽徴な林野産物を指称するに止まるものとみるべきもののように思われないではない。

しかし、旧法第一八条は、国有林野の保護委託および受託者に対する林野産物の譲与についての基本的事項だけを規定し、その詳細については勅令に委任し、その勅令たる委託規則において、委託林野の委託期間、受託者の権利義務、委託の解除等について具体的な定めをしているのであるから、旧法第二三条が同法第一八条第三項を部分林の造林者に準用するとしたことは、同法第一九条以下に規定する部分林に関する基本的事項以外の事項、すなわち、部分林設定方法のほか、部分林の収益分収の方法、効果等を含む造林者の権利義務にわたる詳細につき、これを勅令に委任する旨を規定したものと解するのが相当である。そして、このことは、旧法第二二条が共有物の分割にあたる部分林の樹木の分収につき、民法第二五六条の適用を排除するという特別の規制を加えているにかかわらず、これに対処する旧法上の規定がないこと、「林野産物」または「林野産物の譲与」という言葉に、用語のうえでも「部分林の樹木」または「部分林の樹木の分収」という概念を含むことからしても首肯できるところである。

また、原告主張のように、立木竹につき所有の事実が認められ、その結果下戻により所有権を取得する場合があるとすれば、原告主張のごとき不均衡の生ずることが考えられる。しかし、下戻により立木竹の所有権を取得した場合でも、国有林野上に際限なくその樹木を放置し、もしくは成育させることは、土地占有権限との関係において問題を残すことになることは明らかである。したがつて、立木竹につき下戻により分収権を取得した場合を、下戻により直接単独所有権を取得した場合と同様に解しなければならないことにはならない。

右のとおりで、旧規則第一二条、第一三条は、旧法の委任によつて規定された有効なものというべきである。

原告主張の再抗弁は、農商務大臣が判示杉立木につき部分林の存続期間を定めなかつたことを理由とするものであるところ、同大臣が右期間を定めずにただちに材積をもつて分収することとしたこと、そのことは旧法、旧規則のうえで違法とは解されないことはさきに述べたとおりであるから、右再抗弁は理由がない。

上記の次第で、被告の抗弁三は理由があるから、その他の争点につき判断するまでもなく、原告の本件請求は、失当というべきである。

よつて、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田秀慧 上杉晴一郎 村上光鵄)

物件目録<省略>

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